知らぬ顔の…なんて言わないで
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


厳密に言えば、真の職場は、
所轄とされてる地域に発生する“現場”とその周辺なのであり。
それがため大概は外に出ていて、
微妙に“内勤”とは言えない職種だとはいえ。
大人数で当たる捜査の統括、刷り合わせは当然必要なんだし、
担当した案件の報告書を綴る必要もあってのこと。
課員の頭数だけデスクがあるのだろう、
それは広々とした捜査一課の刑事部屋の一角にて。

 「………っと。」

一人ポツンとノートパソコンにて関係書類をまとめていた、
ワイシャツ姿の若手の男性が。
不意に何にか気づいてのこと“お…っ”と顔を上げると、
そのままシャツの胸ポケットへと手を伸ばす。
マナーモードにしていた携帯電話がお呼びだったようで、
2ツ折のそれ、ぱかりと開いて届いたばかりのメールを見やり。
おやと眉をひそめつつ、内容に関係してだか お顔を上げれば。
さして視線で捜し回らずとも、
外からの扉から、上司にあたる壮年男性が入って来たところだったため、

 「…警部補。」

視線を向けただけで、呼んでいることは伝わる間柄ではあるものの、
署内の腐警、もとえ婦警たちを徒に沸かせても何なので。
(笑)
一応はと名を呼び掛けた佐伯征樹刑事のもとへ、

 「どうした?」

直前まであたっていた事件が、ちょいと手古摺った事案だったので。
提出書類待ちとはいえ、やっと片付いたその報告だけでもと、
気を揉んでいた上つ方へ届けに運んでいたベテラン、島田勘兵衛警部補殿。
早くも次の通報でもあったかと言わんばかりのレベルで、
精悍なお顔を一瞬冴えさせたものの。
何で彼がそこまで表情が険しくなるのか、
こちらさんにも何とはなく判っているが故の苦笑交じり、

 「仕事中に何ですが、事件とは関係ないですよ。」

周辺には他に人影も無しということで、
それでもこそりと、幾分か低めたお声で告げてから、

 「○曜日に休みを取られたのって、
  おシチちゃんと逢うからなんでしょう?」

 「……まあ、そうだが。」

今度は、言った覚えはないのに何で判るのだと、
そういう感触でだろう、
眉を寄せ、表情の冴えを警戒レベルに引き上げる彼であり。
日頃、老獪周到な警部補殿が、
たちまち高校生並みの判りやすさになるところが、

 “人って判らないもんだよなぁ。”

現今へと転生したこれまでにだって、
学生時代や若かりし頃の折々に それなりの色恋は経験してもおいでだろうにね。
しかもその上、
人と人とが関わり合って起きる“事件”を山ほど扱い、
理屈通りにはいかないが故の、理不尽な暴発やら何やも、
一般人以上に見聞きし、把握もしているはずの彼だというに。
犯罪関係のノウハウだの手口だのには通じていても、
犯罪の地盤にもなり得る、男女間の心理にも多少は長けていらしても、
ご自身の、それも今現在の恋模様には、
不思議と…おぼこいというか初心というか、
物慣れない若造レベルの言動が飛び出すことも多かりしな勘兵衛であり。

 “そりゃあまあ、何へでも満遍なく完璧な人なぞいはしないが。”

特に、ずば抜けて優れているところを持つ人は、
それへの相殺であるかの如く、
別なところがぼこぉっと抜け落ちているものよとも言うくらいだ。
彼の場合、自身への恋情関係がそれに当たるのだろうかねと、
かつてと同様、数年ほど後輩にあたる身でありながらも、
ともすれば“可愛らしいものだ”と感じ入ってしまう。
幾層にも年輪を重ねておいでなのだろうなと思わせる、
見栄えの醸す奥深さのみに収まらず。
どんな陰惨な事件へ対する場合だって、
冷静沈着、顔色ひとつ変えないはずの、
辣腕“鬼”警部補殿だというに。
それが…打って変わって、何とも他愛ない話題へと、
こうまでありあり表情を動かしたこと、
ほこほこ嬉しがってる征樹じゃああったが、

 「……。」
 「あ〜、えっとですね。」

いかんいかん、プライヴェートにも程がある話でもあるんだったと。
いつまでもこっちを見やっておいでの、
地元でこっそり“鷹の目”なんて呼ばれてもいる鋭い目線に、
ハッと我に返った佐伯殿。
ちょっとばかり目線が泳いでのそれから、
意を決したように おもむろに口にしたのが、

 「林田さん、ひなげしさんからのメールで、
  おシチちゃん、またぞろ過激なミニで決めてくらしいので、
  どうかご用心とのことです。」

 「〜〜〜〜〜〜。」

それまでは、事件経過の報告待ちとあんまり大差無い態度、
かっちりとしたスーツを隙なく着こなす頼もしさにもいや映える、
目線も口許も、そりゃあきりりとした様子でおいでだったものが。
何でもないメールを佐伯刑事が読み上げ終えたその途端、
あっと言う間に文字通り頽れ落ち、
頼もしい両手をデスクにつくことで、
辛うじて身を支えていなさる落差の見事さよ。

 「相変わらず、情報のやり取りをしておるのだな。」
 「ええまあ…。」

本当は、そっちを言いたいんでも訊きたいんでもないんでしょにねぇと、
判っちゃいるが、そこはそれこそ武士の情け。
年の差とか、階級差なんてのは関係ないことだが、
それでも…高飛車にも偉そうに、
こっちからリード取って進めていい話じゃあないという、
わきまえくらいはあるものだから。
この段階では、あくまでも聞かれたことにしか応じずにいれば、

 「…今年の流行、ということでもないのだろうに。」
 「はあ、そのようですよね。」

それだけの言い回しだけで、
何を言いたい勘兵衛か、判ってしまう佐伯さんだったりする辺り。
どんだけ長く、しかも恒常的に悩まされていることなのかも明らかで。
はぁあと見るからに大儀そうに肩を落とした、この壮年様。
キャリアのみならず本人の特性というか性分というかも、
事件とあらば…現場で駆け回っての掴みかかって犯人を追うよりも、
理詰めで追い詰めて落とすほうが得意だろうし、似合ってもいそうな、
そんな落ち着きある重厚な知的タイプの警部補殿だというに。

 その可愛らしい恋人さんというのが、
 何とぴっちぴちの現役女子高生だというから、
 人は見かけによらないというか、
 世の中は不思議で一杯だと言いましょうか。
(こらこら)

してまたなんと、その彼女、
勘兵衛との間に ちょっとした…事情というか、
因果めいたものがなくはないのは ともかくとして。
素行にも問題はない、非の打ちどころのない美少女でありはすれども、

 「何でまた、ああも短いスカートを履きたがるかな、あやつは。」

共に忙しい身の双方なので、侭になる時間も限られており。
それが奇しくも重なったれば、いそいそと逢瀬の機会を持つのだけれど。
このごろでは特に希少なデートのそのたんび、
一時的なブームではないらしいミニスカートを、
余程に気に入っておいでか、
今時に限らず、真冬の厳寒の中でさえ、
これでもかと履きたがるおシチちゃんこと七郎次であり。
その点だけが、何と言いますか…いい年齢
(トシ)した勘兵衛には
色んな意味から難物だとも言えるのらしく。

 「名家の一人娘で、お嬢様学校に通ってて。
  品行方正、物の道理も判ってる落ち着いた子ですのにねぇ。」

剣道を嗜んでいてのそれはお元気でお行儀もいいし、
そういう年頃のたしなみか、
大人や連れである殿方を立てることをちゃんと知っているお嬢さんなので、
決して蓮っ葉な自己主張のつもりもなかろうが、

 「色香をアピールしたいからじゃあなく、
  単に好きだから選んでしまうってだけなんでしょうけれど。」

微妙なファッションではありますよね、と。
異性の異性たる魅惑を強調しまくりないで立ちへ、
この壮年が内心どれほど焦っておいでかも判らんではないと、
自身の感慨を吐露した征樹だったのへ。
味方を得たりとうんうん頷いた勘兵衛としては、

 「平八がわざわざ言って来たのも、
  もしかして辞めさせたきゃ説得しろという意味なんだろうな。」

何せ、あちらの3人娘は
前世の記憶が戻る前から固い友情で結ばれておいでで。
だというのに、こんな風に…七郎次の行動へ前以てのご注進を図った辺り、
彼女らにしても目に余ると言いたいらしい気配が見え隠れ。

 “前世を思い出しているのなら、
  当時は男だった奴らもまた、
  翻弄される側の心理、覚えていない訳じゃないということかの。”

女性は女性というだけで男の関心をくすぐるのであり、
それが、瑞々しい若さの華やぎをちりばめて、
そりゃあ魅惑的ないで立ちをわざわざ選んで現れたなら、
それへと視線を振ったところで それは至って自然な反応だろう。
どんだけきわどいカッコをしていようと、
女性の側に、挑発だの誘惑だのという意図はないよと思うのと同じだけ、
こっちにだってその全部へいちいち下心はないのだが、
あの人チラ見したわ いやらしい、
男ってどうしてああもスケベエなのかしら、なぞと、
決めつけられての見下されるなんてのはそれこそ心外で。

 それともう一つ、大事なこととして。
 他の男からの
 そういった関心 寄せられるのが、迷惑というか不愉快というか。

中には、俺の女いいだろぉと見せびらかしたい奴もいるかも知れない。
でもそれって、ブランドのバッグと同じ扱いなんじゃあなかろうか。
いやさ、大事に愛用してなさる場合は例外だけれど、
お高いんだぜ、なかなか手には入らない逸品だ、
これを持ってる俺ってどうよと、
そういう意味合いで見せびらかしたいだけの、アクセサリ扱いでもいいの?
多少はそういった羨望を集めたくもあろうけど、
大半の男性は、いやさ ここのところは女性も同じで、
自慢の連れをひけらかしたいと思う以上に、
大切な連れ合いと、そんなカノ女と一緒にいる時間は、
邪魔されず、独り占めしたかろうものだろから。
なので、見られたくらいで減るもんじゃなしとは言えど、
他所の男にまで眼福ほどこす義理はねぇと、
勿体ないと思うのもまた、自然な心理というもので。

 「奪われると思うとか、自信がないとか、
  そういう心持ちの現れという説もあるそうですが。」

 「言いたい奴には言わせておくさね。」

何とか身を起こしはしたが、表情はやや憮然としたまま、
そっけない語調で言い返す勘兵衛であり。
是非ともこういう態度になる彼をこそ、
あの愛らしいお嬢さんに見せたいと、佐伯さんが感じても無理はなく。

 “これほど説得力のある説得もないだろな”

  うんうん判るよ、佐伯さん。
(苦笑)

そもそも、
ミニスカートが一概に、男性をそそるためのアイテムとは限らない。
あらわという要素で妖冶艶麗な大人の色香を出したいならば、
どんだけはちきれそうかという中身の豊満さが伴われなければ意味がなく。
それを思えば、今時の若い女子らの主張、
すんなりした脚が長々見えるということも、
薄い腰やらすんなりしなやかな背中などなど、
全体のバランスが華奢で稚
(いとけな)いことをこそ強調しており。

 それはむしろ、
 よく熟した桃色の色香よりも、
 青い果実なればこその魅力の主張ではなかろうか。

短さのあまりパンチラするかもとかいった、直接的な要素もまた、
かわいらしい系のそれとして解釈されていて。
(極論を言えば、ワカメちゃんのパンチラとか…。)
殊に近年では、
AKB○○に代表される
清純系アイドルのコスチュームに多用されるほど顕著だったりし。

 「パンツルックが好きな人がいるように、私はミニスカートが好きなだけ。
  可愛いと思うから、自分に似合うと思うから選んだだけだと。」

  おシチちゃんだと言いそうですよね。
  うむ、現に言っておった。

 「あれはいいけどこれはダメなんて、
  いちいち自分の好みを押し付ける男なんて
  束縛したがりでサイテーだというご意見もありますし。」

  そういう奴がサ、
  逢うたびメールチェックしたり
  終しまいには自分以外の男と喋るなとか言い出すんだよ、怖〜い…って、
  ウチの生活安全課の○○ちゃんたちも言ってましたし、と。
  さりげなくリサーチしてくれていたらしい征樹殿ではあれど。

 「ただ、じゃあ干渉は厳禁らしいからって、
  放っておけるかというと、そっちも問題ですよね。」

そういう蠱惑的ないで立ちに、
女性の側の“妬いてほしい心理”が全くの全然ないとも言えまい。
くどいようだが、
それが“俺のセフレを見よ”という感覚だったら腹も立とうし、
逆に、誰が見てようと全然平気…と、
何を着て来たって一緒だと振る舞われるのも、
それはそれで思うところが生じはしまいか? 女性陣。

 ……と、
 何だかキリがない迷宮へ突入しかかった論議(?)だったが、

 「シチの場合はそっちの案じは要らぬのだがな。」
 「………おや。」

ついつい昔の習慣、癖が残っていてのこと、
スーツのあちらこちら、ポケットをパタパタと軽く叩いてから、
あ、そうだったと、禁煙中なの思い出した警部補殿。
最後に叩いたジャケットの内ポケットに入ってた、
葡萄味の小粒キャンディを引っ張り出しつつのお言葉だったのは。
それを“どうぞ”とデート中にでもくれたのが、
問題の困ったお嬢さんであったからだろか。
愛しいと言わんばかり、感慨深げにも目許を細めてしまわれて、

 「足首のしまった脚が綺麗なのも知ってるし、
  ミニスカートをはくとその足が長く見えて、
  そのままモデルみたいに映えるのが嬉しい…というのも判る。」

まだかなまだかなと、通りの左右を見渡している人待ち顔の彼女の、
何かに凭れたり、
そうかと思えばお膝に手をおき、靴の爪先なんぞを確認してみたり。
そんな仕草の一つ一つが、
いつまでも眺めてたくなる愛らしさではあるものの。
だからといって、
他の若造にも同じ眼福をほどこしてやれるほど、
心の広い自分じゃあないし。
間近によってこそ得られる、
白いお顔に落ちかかる金の後れ毛の燦めきやら、
愛用のトワレのだろう、甘い柑橘の香り、
自分へだけの含羞みやら笑顔やらをこそ、
一刻も早く掻い込みたいとも思うワケで。

 「それが“押し倒したい”にならないよう、
  冗談抜きに頑張って辛抱してくださいませよ。」

 「……………。」

あ、また耳なんか塞いでと。
それも肘を両側へ突っ張らかしてのわざとらしくというポーズなの、
子供っぽい真似はよして下さいませと、
どっちもどこまで本気やら、
窘める佐伯さんと知らん顔する勘兵衛様だったりし。


  男性は男性で、色々と思うところが実はお在りのようですよ?と、
  すっかり青々と濃い色へ育った葉桜が、
  ざわわと楽しげにビル風に揺れた、夏の初めの昼下がりだったとか。





   〜Fine〜  11.07.11.


  *先日UPした『選りにも選って』の
   アンサー篇というところでしょか。
   保護者サイドの男性陣、
   それも、知らぬ顔の半兵衛なんて言われてた勘兵衛様。
   実のところはどうなんでしょかと、いうことでvv

   Ans. むちゃくちゃ焦っておいでらしいです。
(笑)

   本文中でも挙げたよに、
   マイクロ丈のミニスカートには、
   女性サイドに色々な見解があるように、
   男性の側にも色々と言い分はあるようですよ?
   だって足が長く見えて可愛いから履いてるだけ、
   なのにチラ見なんかして えっちぃと言い出す女の子へ、
   “だったらそんなカッコするな”と思う男の子もいれば。
   大好きなカレ氏が、
   デート中やたらと他の女の子へも優しいと腹立たないか?と、
   それと同じことなんだよと、やんわり窘める人もいる。
   当人がどんなつもりで着ていようと、
   やらしい人は やらしい対象として見ることに抵抗ないそうですし、
   見られたいんだろと決めつける奴も珍しくはない。
   悪いのはどっちかといや、
   不謹慎で疚しい想像している側ではありましょうが、
   焼き立てパンのいい匂いがすりゃあ、
   どうしても鼻がクンクンと働いて、
   どこだろどこだろと探してしまうのも無理ないこと。
   どんなカッコしても自由じゃんかと言い張るのは結構ですが、
   願わくば、その行動で起きそうなことへも想像力を働かせ、
   自己責任も取れてこそ“自由”と言って下さいませね?

   ちなみに、もーりんが気になってるのは、
   やたら腰の位置を低く下げてるローライズのボトムの方ですが。
   ファッションだってんだったら股上の浅いのを履けばいいのにね。
   注意されたら引っ張り上げるために、
   普通の仕様のを履いてるとしか見えんのだが…。


  *ちなみついでに、
   “知らぬ顔の半兵衛”という言い回しは、
   あの戦国最高の知将と謳われた竹中半兵衛のこと。
   何食わぬ顔をしつつ、深くて様々な知略を巡らせた、
   そんな飄々とした様子、になぞらえたものだそうです。

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